Gallerist Statement
私が絵を描くことに興味を持ったのは、小学校の図工の授業でのスケッチの時でした。教室で一方的に先生の話を聞くのが大の苦手な私は、屋外でクラスメートとおしゃべりをしながら風景を描いたのですが、その時の楽しさは今でも鮮明に強く記憶に残っています。
「画家」という職業に漠然と興味を持った私は、短大で芸術を学びましたが、その後は本格的な画家への道を目指すことはありませんでした。それでも絵を描くことは続け、トールペイント、ボタニカルアート、ステンドグラス制作等様々なアートに取り組んできました。
幼いころから人一倍「感受性」が強かった私はエンパス体質とでもいうのでしょうか、相手の感情や気持ちを何となく感じ取ってしまうことが多々あり、相手のことを理解するのにはプラスになるのですが、相手のマイナス面まで感じ取ってしまい、人間関係を構築するのが大変苦手なのです。
そんな私が唯一素直に向き合えるのが動植物です。動植物はありのままの姿を私に見せてくれる。そこには人間のように自分を着飾ったり嘘をついたりするような所作はなく、ストレートに私に語りかけてくれる、パワーを与えてくれる存在なのです。
私がこのギャラリーを始めることになったきっかけは、原因不明の手の痺れにより絵を描くのが困難になったことです。それまでは様々なアート活動によって自分自身を表現し、そうすることで気持ちを整理することもできたのですが、その術がなくなったのです。ものすごくショックでした。替わる術も見つからず悶々としていたところ、ある人が「ギャラリスト」になることを示唆してくれました。ギャラリストがギャラリーを持ちアートを発信する職業だと知り、絵を描けなくなった私が出来ることはこれではないかと思ったのです。
私は絵が好きです。絵は私を明るく・素直に・無心にしてくれます。絵は私が生きていくのに必要なものです。
しかし世界では、今まで当たり前であった日常が当たり前でなくなってしまいました。アートの世界も例外なく、あらゆる個展、フェアは中止、延期を余儀なくされ、作家は発表の場を、観客はアートに触れる場を失っています。
こんな先の見えない不安な気持ちになる時こそ、絵の持つ力で明るく・素直に・無心になって前を向く。私のギャラリーをそんな場所にしたいと思っています。
ギャラリーをここ鎌倉の地に得たのはいくつもの縁や偶然が重なった結果です。山と海に囲まれた自然豊かな鎌倉は、四季をとおして花々を楽しめるお寺や神社も数多く、特に、紫陽花や紅葉の時期には見事な景色が広がります。また鎌倉は年間2000万もの人が訪れる場所でもあります。
「自然に囲まれた環境のもとで動植物を中心としたアートの力を発信していく」これがGallery蘇処の今のコンセプトです。
こんな価値観のわがままな画廊主が運営するギャラリーです。共感いただける作家の方、観客の方をお待ちしています。
画廊主 中村 睦